平の将門

平の将門 (吉川英治歴史時代文庫)

平の将門 (吉川英治歴史時代文庫)

承平天慶の乱といかめしく言うまでもなく、
平安期の関東を揺るがした世紀の叛逆者・平将門を主題とする歴史小説


将門を描く上での様式美の一部ではあるのだが、
本作では徹頭徹尾将門は愚直な男として描かれている。
特に作中反撃を受け、妻子を失ってからは関東の覇者となり新皇と呼ばれながら
鬱々とし楽しまず、失われた面影を求めてさまよい、時に阿修羅のように戦う人間臭い将門と、
彼を操り南海に兵を上げた藤原純友を援護しようとする八坂不死人のトリックスターぶりが
いかにも鮮やかであり、
将門のあっけない死故に、彼の祟り・怨霊がリアリティをもって迫ってきたとする言葉にも説得力がある。


個人的には様式美の結集として海音寺潮五郎の「平将門」を勧めたいが、
吉川先生の淡々としながらしかしスタンダードを踏み越えない語り口も涼やかで捨てがたいと思うわけで。