翼の折れた天使

もし 俺がヒーローだったら
悲しみを 近づけやしないのに...


2001年当時から、どちらかというと彼女は「イノセンス」な存在として見られていた。
同期で年の近い少女が「純真」であり、天真爛漫な存在であったのと対照的に、
ある種美しいガラス細工を思わせるその偶像へ、
まるで自分の娘。を見るような思いを手向けている人も少なくなかった。


事実僕の友達で彼女のファンだった人にそんな話をしてくれた人もいたし、
それぐらい彼女のファンは彼女を大切に思っていた。
さまざまな事に感じやすい彼女の心を思っては、口さがない人々と言い争いをすることもあった。


それだけ熱烈なファンに守られた彼女とツアーを回る機会があって、
やはり僕にとっても彼女は一種の「天使」だった。
どこか繊細ながら、ふわふわと地面から浮いているような。かわいらしく爽やかでどこか暖かい雰囲気。
それは浅はかな軽さではなく、本物の軽みだった。
悪食の僕にとってはともかく、やはり守ってあげたいと思う人がいるのも納得できた。


だからあの冬の日は本当につらかった。
つらい顔をした友達を見たくなくて、声を掛けることさえ憚られるままに時は流れ、
気がつけば彼女も友達も遠くなっていった。


昨年の暑い梅雨の頃、
ちょうど僕はFair Warningのインストアイベントの予約をしようと思っている頃で、
同日の次のコマに彼女の名前を見たときは、よもやすれ違うこともあるかもしれないと思った。
だが、実際に予約しに店に行ってみると、彼女のイベント告知はなくなっていた。
きっと、彼女のファンだけで整理券ははけてしまったんだろうな。
みんな彼女が大好きだったから。


結局すれ違うことさえないまま、僕は時折世の中に冷たい視線を浴びる彼女を、
どうしてあげることも出来なく見守ることしかできていない。
僕から見ても彼女は本当は今、そこにいてはいけない人なのだから。
それでも彼女にはきっと、「そこ」以外の居場所はないのだろう。
一人でもあの頃と同じように、守りたいと思う人がいてくれる限り。


翼は折れても、天使は天使のまま、歩き続けなければならない。
場合によっては、折れた翼を引きずっても。


汚れた羽根の色は心を刺し、過去からの光は泥にまみれた翼を固め、より動かなくする。
それは僕が思う以上に辛く苦しいものであるに違いない。
そしてヒーローでない僕は、やはりどうして上げることも出来ない。


それでも僕は、彼女の幸せを祈っている。
その大きさは違っても、僕らもまた翼の折れた天使で、泥にまみれて生きているのだから。
誰が彼女を罪人と呼べるだろうか。


僕は祈っている。
未来から彼女へもたらされるものが光であることを。
いつかすれ違う時に、彼女と、彼女を取り巻く人々に、遍く幸いの訪れていますように。


お誕生日おめでとう。

ohhh... 翼の折れたエンジェル
あいつも 翼の折れたエンジェル
みんな翔べない エンジェル