韃靼疾風録(司馬遼太郎)

韃靼疾風録〈上〉 (中公文庫)

韃靼疾風録〈上〉 (中公文庫)

明末清初の中国大陸を舞台に、漂着した韃靼人を送り届ける日本人・桂庄助の物語を描く。


韃靼人=女真族=後の清に連なる貴族の娘であるアビアを送り届ける物語の傍ら、
観念主義に凝り固まった李氏朝鮮
着実に死への道を歩み続ける明、
朴訥でありながら敢然と支配者への道を行く清、
そしていつしか国を閉ざしていく日本、とそれぞれの姿が詳らかに描かれていく。


送り届けてみればアビアの父は既に謀反人として討たれており、
窮余の一策としてアビアは庄助の妻=日本人ということになるが、
侍である庄助は「主筋の女性を送り届ける」任務に固執し、なかなか彼女とくっつこうとしない。
いざ抱きしめる頃には、日本は鎖国して海外在住の日本人を拒むようになり、
庄助は亡命明人として日本へ向かうこととなる。
女真人の貴族・バートラや摂政ドルゴンとの民族、愛憎を超えた友情と照らし合わせて、
結局のところ民族とは何なんだろう?と思わせてくれる。


個人的には、その疑問自体日本が平和で豊かな国であればこそ生まれるものだと思うが。