Live For You(ある遠征の一幕)

♪Live For You(Bad Habit)

前日の深夜、ライブ会場に向かうバス乗り場へ向かう。
リュックには着替えやライブ用のアイテム、暇つぶしグッズ、時刻表などが満載され、
横の網には途中で買ったライフガードが突き刺さっていた。


新宿であれば、工学院大学前あたりが「ツアーバス」の乗り場。
旅行ツアー扱いで走っているバスは値段が安く、普通の夜行バス片道分で往復できることもある。
シートは4列だし、トイレさえついていないバスに何時間も乗るなんて酔狂だが、
当時は何とも思っていなかった。
しまいには、旅行会社の下請けでバスを回している会社の名前を覚えるくらいだった。


そういうバスは、途中で何度か夜間休憩を取る。
SAで見上げる空は高く、黒曜石のように広がっては、キラキラと輝く星を包んでいた。
見上げる僕は、まどろむばかりで一睡もしていない。


夜行バスは朝早く目的地につく。
そんな時間ではやることがなく、とりあえず会場へ向かう。
僕が一番ライブに行っていた頃、会場は2000〜1000人規模のホールが多かった。
周りにコンビニはあるか、牛丼屋はあるか、たまり場はあるか、そんなことを調べて時間を潰し、会場を去る。
歩き回っているうちに時間が潰れていくのを待つのだ。


待っているうちに観光地めぐりが始まる。
城に登ったり、建造物を見たり、時には温泉に漬かったり・・・
何気なく流れていく時間が、昼の公演に向けて凝縮されていく。


友達もぼつぼつ集まり始め、気がつけば昼公演の開演。
終わる頃には日も暮れ染め、帰る人もあれば来る人もあり、二時間外で待ちぼうけていた人もおり。
この時間の谷間、キンと世界が止まったような感じを振り切り、
あっという間に夜公演が始まり、そして終わる。


気がつけば空は夜空。
友達何人かで連れ立ち、安い飲み屋に行ったり、はたまた地元の名物に舌鼓を打ったり。


いやあ、ライブって楽しいなあ。


そんな気持ちのまま風呂に入るのが最上の悦楽だった。


今になって、あの頃の風を懐かしく思い出す。
ライブが終わった後の飯はなんであんなに美味かったんだろうとか。
答えはきっと、どこにもない。
あの風の中にしか。


そして僕はまた、風の中に歩みを進めようとしている。
その向こうに何があるかは、未来の僕だけが知っていること。