海を飛ぶ夢

海を飛ぶ夢 [DVD]

海を飛ぶ夢 [DVD]

舞台はスペイン・ガリシア
四肢麻痺で手足が動かない主人公ラモンは、尊厳死を願い訴訟を起こしている。
彼の下を女弁護士が訪ねるところから、物語は始まる。


淡々とした空気で物語は進んでいく。
派手な音楽はなく、時には登場人物の声だけや、鳥の鳴き声が少し入る程度のことも。
そのじっとりとした空気感が快くて虜にされる。
時折、モノクロームの世界にほのかに色をつけるようなバグパイプの曲*1が奏でられて、それもまた良い。


尊厳死というテーマを描きながら、本作の主題は「愛」以外の何ものでもないと思う。
ラモンを取り巻く家族の想い、ラモンから家族への想い。
そしてマグマのように赤々と走るラモンの恋情、ラモンへの恋情。
モノクロの「死」というテーマの中に、色鮮やかに走る「愛」は「生」そのものだ。


「死」を描くということがこれほどに「生」を鮮やかに力強く映し出すのを他に知らない。
派手さもカタルシスもないが、胸を打つ芳醇さのある一作。

*1:演ずるのはガリシア出身のバグパイプ奏者、カルロス・ヌニェス