メロン記念日解散ライブ おまけ 柴田あゆみMC
- 作者: 尾形正茂
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2002/06
- メディア: 大型本
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名場面の一つだと思うが、さすがに書いてる所もないので。
柴田あゆみの沈黙
今後について話すのは一番手。
まず冒頭に、3月に仲のいい兄*2が病気で倒れたこと、その際に歌で励まされたことを語る。
やはり歌が好きだし、もっと多くの人に自分の歌を聞いてほしい。
そんな気持ちを話しながら、今後どうするかについて話す段で柴田は沈黙してしまう。
柴田あゆみは歌に対する愛着が強い。
一般的に言えば声の線も細く、歌手としてやっていけるほど上手いとまでは言えない。
僕なんかは、歌より舞台の方が向いているのではないかと思うし、現に幾度となくいい仕事をしてきた。
だが、本人の歌への思いは揺るがなかった。
歌手であり続けたいという気持ちも、幾度となくファンに話していた。
けれど、彼女は沈黙していた。
「歌が好きです。だからこれからも、歌手を続けていきたいと思います。」
たったそれだけの事が言えずに。
旅立ち
長い沈黙に、ファンの叫び声がちらほらと起き、やがて少しずつ重なっていく。
「あゆみ!」
長い沈黙を破って、彼女は語り始めた。
また一からやり直して、いつ歌手として戻ってこられるか分からない。
みんなに対して、きっと戻ってくると約束することも出来ない。
アイドルグループの一員としてソロ活動をするのとは異なる、過酷さが透けて見えた。
これからも歌い続けたいという気持ちと裏腹な、将来に対する漠然とした不安と、
自分を応援してくれる人達へ、自分の気持ちを正直に伝えたいという想い。
長い沈黙は、どんな言葉よりも雄弁に彼女の心を伝えていた。
「これからも、一歩一歩、歩んでいきます。」
涙ぐむ声が語る。
それは彼女の名前に、ご両親がこめた想い。
彼女の名前に、僕らが見ていた想い。
「がんばります!」
その日、一人の女性が、夢に向かって歩み始めた。
メロン記念日という大きな巣から、曇り空へ向かって飛び立つ彼女の羽は、煌くほど白くて。
見送る僕らの目を何度も瞬かせた。
終わりに
柴田は人と話すとき、上手い言葉が見つからないタイプでもあるのだが、
それ以上に伝えたいという気持ちが強すぎてまごついてしまうタイプなのかもしれない。
不器用さと、不器用なりに一歩一歩進んでいく過程こそが柴田あゆみというアイドルだった。
そしてそういう彼女に、僕自身もまた導かれていたのだと、今は思う。
彼女に対して僕が出来る、最後の御礼としてこの文章を残したい。
そして、待っていたりはしないけれど、
いつまでも心の中に彼女の居場所をとっておこう。
彼女がそこに、戻ってくる日まで。